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次に向かった先は、一家が全員バラバラに斬り刻まれるという、凄惨な事件の現場であった民家だ。
事件から数日が経過しているが、警察官が未だに数人居た。
なお、近隣の住民の殆どは逃げ出してしまっているため、昼間だというのに不気味なまでの静けさがそこにはある。
「お疲れ様です。先日、ここの担当に割り振られたのですが、今一つ状況が掴めなくて。情報をいただいてもいいですか?」
突然現れたエリミラに警察官達は不審な目を向けたが、数秒と経たないうちに上役を見る目へと変わった。
「被害者は四人、全員が刀のような鋭い刃物でバラバラに刻まれています。最低でも……七つのパーツに……ね」
「子供の遺体だけは、その……臓器を食い散らかしたような痕跡がありました」
想像するだけで吐き気を催す様相だ。
涼は耳にしてしまったことを後悔していたが、エリミラは質問を続ける。
「犯人の手がかりは?」
「それが……家の中に人間とは思えない足跡がいくつもあった他には何も……」
警察官は写真を見せる。
それは人間の足跡というにはあまりにも異質であった。
二本の長い指、途中で太さが変わっているのでそこから先は爪なのだろう。
全体的に爬虫類や鳥類を連想させるフォルムだが、甲殻のようにも見て取れる。
「こんな生物、目撃者が居るのでは?」
「それが、誰もそれらしきモノを見ていないのです」
「……分かりました。では、中を失礼します」
エリミラは事件現場の内部へと、さも当然のように入っていく。
涼にはそれを、ただ黙って見送ることしか出来ない。
いくら吸血鬼の基本技能とやらがあるとは言え、どう考えても無茶苦茶だ。
いつ正気に戻った警察官に追い回されるか分からない、それは昨夜の女に追い掛け回された恐怖と同じものを感じさせる。
二十分ほどで、エリミラは外に出てきた。
その間、警察官が異常を感じた様子はない。
「おかえり。何か分かったか?」
その場から立ち去りつつ、涼は問う。
「ここで殺戮を行ったのは、人間を依代とするようなか弱い悪魔ではありません。それ自体が実体を持つことが出来る、多少強力な悪魔です」
涼は背筋に寒気を感じる。
あの女が相手ですら、自分は逃げることしか出来なかった。
それを超える悪魔など、想像したくもないというのが率直な感想だ。
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