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夜の闇と身を裂く冷たさに包まれた、都市化が進む神楽市中央とその外れ。
そこでは増加した凶悪な猟奇殺人の対応に追われる警察官があちらへこちらへと走り回っており、出歩く者などほとんど居ない。
「三丁目でバラバラ死体発見だそうです」
「二丁目では飼い犬が腕を咥えて来たとよ」
「どうなっちまったんだ、この街は」
数ヶ月前から連続して発生している猟奇事件は、市民はおろか警察すらも恐怖に染め上げていた。
犯人の手がかりはなく、同一犯なのかどうかすら掴めない。
発狂した何者かが現場に居合わせたこともあるが、その後の調べで犯人ではないと立証されている。
「被害者というべきか生存者というべきか、あの男の言ってたバケモノってのは、一体何なんでしょうね」
「想像もつくかよそんなもの。刃物持った大男が闇夜に現れりゃあ、俺だってソイツをバケモノ呼ばわりするだろうサ」
正気を失った人間の戯言、誰もがそう思っていた。
バケモノなど、現生人類のほぼ全てが見たことなどありはしない。
大衆の知るバケモノとは、マンガやアニメーション、小説に映画、その他諸々の創作物の中でのみ生を許されたものなのだ。
「次は俺達のうちの誰かが仏になるんですかね。その、バケモノとかいうのに見つかって」
「滅多なことを言うんじゃねぇよバカ。不謹慎だぞ」
本来はあってはならない発言だが、軽口でも叩いていないと仕事にならないのだ。
彼らも本当は、早々に切り上げて家に帰りたいに決まっている。
「さっきの事件はデカ共が対応に向かった。俺達の仕事はこの辺りのパトロールだけだ。さっさと終わらせるぞ」
「了解っすよ、先輩」
パトカーは夜の街を走る。
不気味な静けさの中を、僅かに血生臭い風を纏いながら。
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