闇は貴方の傍らに

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「な、にが、起きた……?」 状況が掴めない。 最後に見た光景は、閃光と、跳ね飛ばされる女の姿だ。 「誰……だ……?」 目の前には、漆黒の鎧を身に纏う女が居た。 闇に溶け込む肩ほどの漆黒の髪は、流れ込む風と共に艶やかに舞っていた。 「……私を呼び出したのは、貴方のようですね。お怪我は……比較的軽いようですね」 振り返った彼女は、真紅の瞳で彼を見つめる。 凛とした美しい声と姿に、彼は思わず見惚れていた。 だが、更にその背後から迫る危機が、浮ついた意識を現実へと引き戻す。 「後ろだ!」 全力で叫んだ。 目の前の彼女を、危機から遠ざけるために。 「ええ、存じております」 迫る敵の殺意に、彼女は拳を真正面から顔面に抉りこむことで答える。 続けて大きく体勢を崩した敵の腹部に強烈な蹴りをお見舞いすることで、強制的に自分との距離を生成する。 「眼前敵の排除まで、数秒頂きます」 彼女は手を翳し、闇の塊と形容できる不可思議なナニカを生み出した。 球形を思わせるそれは次第に長く伸びていき、少しずつ闇が晴れていく。 「君は……一体……」 闇が消えたとき、そこにあった物もまた闇と言えよう。 漆黒に染まった細身の長剣が、彼女の手に握られていた。 「来るがいい、下級魔族よ。依代がなければ姿も保てぬ儚き悪魔が、我が剣によって滅されることを誇るがいい」 苦痛と怒りに震え、悪魔と呼ばれたソレが飛び掛る。 そこから先は、まるでスローモーションの映像のように映っていた。 迫る間に振り上げられた長剣が、攻撃範囲に入った瞬間に振り下ろされる。 頭頂部にその剣を受けた肉体は、まるで豆腐でも切るかのように、数秒の間も無く完全に両断された。
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