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「今日は、ゆっくりとお休みください。あなたの身は、私が守ります」
エリミラは涼を抱き上げ、寝室まで運ぶ。
限界に近かった涼は、その状態のまま眠りへと落ちていった。
寝室へと運び、静かに寝かせ、エリミラは先ほど斬り捨てた死体を調べ始める。
「強くは無い悪魔ですが、武器も持たぬ一般人には危険な相手ですね。肉体を破壊すれば一時的に離れますが、今、この時代に、それが成せる者がどれだけいることやら」
死体は既に腐敗が始まっており、飛び散った血液も蒸発するかのように消えていく。
悪魔に取り憑かれた人間は、人間として最期を迎えることすら許されないのだ。
「浄化、または消滅までこなせるとなる……魔力を持つ者や、我々のような存在。高位の聖職者ならと言ったところですが。……恐らく、私がこの世界に呼び出されたのは、きっと偶然ではない」
彼女は割れた窓から外へと飛び出す。
高所からでも、彼女は用意に着地してみせる。
「この付近で探知できるのは、推定四体。犠牲者が出る前に、始末しなければ!」
手には漆黒の剣、向かう先には悪魔。
彼女は、狩りを始める気だ。
「全く知らない時代の知らない国とは言え、人々が魔族に食い荒らされるのは見過ごせません。せめて付近の魔族くらいは、この手で……!」
彼女は征く。
主の安全のために、救いを求める人々のために。
彼女は吸血鬼。
紛れもない、夜の住人、闇に生きる怪物。
しかし彼女の成そうとすることは、それらとは程遠い。
「我が罪を贖うには到底足りないでしょう。……しかし、それでも私は、この剣を振るう!」
謎多き吸血鬼の騎士、エリミラ。
彼女は未だ明かりの灯る街を駆け、魔を斬り伏せる。
古の罪の贖罪のために、己の主のために、恐怖に沈みつつある街を突き進む。
この日起きた猟奇殺人事件は、涼が遭遇した一軒唯一つであった。
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