第1話

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 初めてその人が、自分たちの前に現れた時、卓は竹内さんのことをお医者さんかと思った。白衣ではなかったが、工場の他の大人たちとはその服装や雰囲気が大きく違っていたからだ。  すらりとした肢体、背広姿で、まっすぐに自分たちの方を見つめているその男の人を工場長が紹介した。 「こちらが、竹内さんや。お前たちにこれから週一回勉強を教えてくれるというこっちゃ。まあ、お前たち、半人前の臨時工に文字なんぞ教えても、いらん知恵つけよるだけで全く意味ないし時間の無駄なんやけどな。でも、まあ、これも時代という奴や。ほら、学士様。なんぞ、挨拶したってや」  工場長の言葉には明らかに竹内という異分子が工場内に入り込んできたことへの不満があふれていた。  しかし、工場長と入れ替わるように臨時工たちの正面に立った竹内は、そんな工場長の不満など意に介さぬように、満面の笑みを浮かべて、はきはきと通る声で自己紹介を始めた。 「ただ今ご紹介に預かりました僕が竹内結城です。これから、毎週水曜日に、君たちの勉強を見ることとなりました……」  竹内は、自己紹介に続いて、いかに自分たちの年代にとって勉強が必要であるかという話を始めた。それは、まるで、第一回の授業のようであった。  臨時工の少年や少女たちは、皆、憑かれたように、その言葉に聞き入っている。一方、工場長は、突然始まった授業に毒気を抜かれたように、「あとはあんじょうやってや」という捨て台詞を残して、そそくさと、その場を後にした。
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