第1話

4/15
前へ
/15ページ
次へ
 卓は教本から顔を上げた。  こんな時間に誰だろう?  ふと、卓は、そのノックの音が竹内さんなのではないかと思った。こんな時間に竹内さんが来るはずはないし、そもそも来る理由もない。勉強会は、水曜日だし、まだ、教材をもらったぱかりだ。  でも、もしかしたら……  卓は期待を胸に、静かにドアを開けた。  竹内さんではなかった。  背広が二人、そこには立っていた。  背の低い方の背広が、小さな声で言った。 「竹内はどこにいる?」 「えっ?」 「竹内だ。竹内結城。ここにはいないのか?」  卓が答える間もなく男たちはずかずかと部屋に入り込んできた。そして、押し入れを開け、布団の隅々まで誰か隠れていないかを調べ、誰もいないとわかると卓の方をキッとにらみつけた。  卓は怖かった。  何を言えばいいのかわからなかった。  消え入りそうな声で、卓はつぶやいた。 「あの……竹内さんは、ここにはいません」  すると、短身の背広が卓の手をつかみ、そして、その恐ろしげな顔を卓の顔に近寄せ、食いつくような勢いで叫んだ。 「いないのはわかってる。竹内はどこにいるんだ?」 「し……知りません。竹内さんなら、竹内さんの家に……」  いきなり、卓はつかまれていた腕を強く引っ張られ、そのまま壁へと振り飛ばされた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加