2人が本棚に入れています
本棚に追加
男は、別な鞭を取り出した。それは、先ほどの鞭より細くしなやかな鞭で、男が軽く振ると、空気を切り裂く音が部屋中に響いた。
男はその鞭を二、三度軽く振るった後、卓の背に打ち付けた。
「痛い!」
そして、間断なく卓の背を鞭の雨が襲った。
「あっ、いやぁああああ、痛い、痛いです。やめて。許してください。ごめんなさい。ごめんなさい。痛いです。やめてください。覚えていないんです。本当です。ぶたないでください。痛い。やめてください」
卓の背中は、鞭の雨によって、ほぼ全体が真っ赤に腫れ上がった。
やがて、卓は、ほとんど悲鳴を上げなくなった。悲鳴を上げる力も失われたのだ。
男は、倒れ伏している卓の首をつかみ、顔を寄せた。
「質問を変えよう。竹内は、蒲田工場での勉強会の時に、お前たち臨時工にどういうことを話していた」
「ぼ……僕たち……に?」
「ああ……」
「……竹内さん…竹内さんは……僕たちに文字を教えてくれて……」
「もっと、勉強以外のことでだ」
「文字というのは、広く世界の情報を得るためには、必要不可欠なものだ。文字を学べば、世界が広がる。世の中のことがわかるようになる」
「続けろ」
「今の世の中は間違っている。極めて少数の資本家が、大多数の労働者、人民から不当に搾取し、肥え太っている。本来、人は生まれながらに平等であり、生まれが悪いから、貧乏人の子供に生まれたからといって、貧しいままであるというのは、おかしな話である。そういう世の中を変えるためには、君たちは、学問をし……」
朦朧とした意識の中、卓は問われるままに答えていた。
竹内さんがよく言っていた言葉を話していた時に、男は、手でそれを制した。
「もう、いい。よくわかった」
「えっ?」
「お前もアカだったんだな」
「アカ……僕がアカ……」
最初のコメントを投稿しよう!