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ざわざわと騒がしい観衆の中から平然として爽子の腕をとり、離れた。
女らしい可愛くて小柄な爽子は街を歩くとよくナンパされる。
困りきった顔でちゃんと断るのだが、その顔がいいのか男共は諦めずしつこく付きまとう事もしばしば……1人で歩くのを嫌がるほど声を掛けられ、アタシが呼び出される。
今夜もそうだ。就業間際に仕事帰りの爽子に助けを求められ駆け付けた先での揉め事だった。
アタシは爽子の高校からの友人で、ちょっとばかり武道を嗜むから、爽子のボディーガード的な存在だ。
爽子曰く『棗は背も高くて綺麗な顔してる』らしいが、並んで歩くと恋人か?と思われるくらい容姿が女らしさとはかけ離れている。
「あ~、棗が男だったらなぁ~。棗と結婚するのに~!」
何度言われた事か。
他の友人たちにも『棗が男なら付き合う!』とよく言われる……言われ過ぎるし、何人にプロポーズされたのか覚えていない。
「女にモテてもなぁ……」
爽子を自宅まで送り届けて空を仰いで呟く。
冗談半分に口にした事がある。
「アタシが男だったら爽子と結婚してるよ」
爽子は満面の笑みで「絶対よ~!」とはしゃいでいたが、そんな事あるはずもなく時は流れる。
別に女が好きな訳じゃない。
アタシはノーマルだ。
だけど、周りから『男だったら』などと言われ続けると『女じゃ悪い』気がしてくる。
「……もうちょっと胸があればな」
自分の小さな胸を見下ろして肩を落とす。
「あ~あ、性別間違えて生まれたよねぇ……生まれ変わりたいよ」
瞬く星空の中にぽっかりと青白く仄かな光を纏う丸い月に自嘲してぼやきながら家に向かった。
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