棗さんの受難

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家に帰り着くと計ったように爽子から着信がくる。 「棗、今日もありがとう」 「うん、またいつでも呼びな」 「うん!棗大好き!」 「はいはい、アタシも好きだよ」 いつもの挨拶。 もう言い慣れた。 冗談混じりに繰り返し告げる言葉。 爽子が彼氏でも作れば済む話なのに、大学までの女子校育ちだからか?爽子は男に免疫少なくアタシを頼る。 可愛い爽子。 今は同性でも結婚出来るよ? 知らないよね? ……面倒になりそうで、教えないけどね。 早く彼氏作りなよ。 呆れとも見える笑いを漏らして布団に潜り込んだ。 ────翌日、アタシは鏡を見る前に青冷める。 「はあぁぁぁぁっ?!」 目覚めてトイレに入ったアタシに有るはずのないモノがあった。 「なんじゃこりゃっ?!」 慌てて鏡を覗き顔を確めると、少しゴツくなった顔が映り、元々薄かった胸は板に…… 「いやいやいやいやいや、可笑しいって!」 困惑して動揺しまくり固まるアタシの耳に聞き慣れたスマホの着信音が聞こえる。 ふらふらと部屋に戻って手に取ると明るい声が響いてきた。 「あ、棗?今からそっちに行っていい?」 「は?」 「もう!仕事休みでしょ!会う約束したじゃない!」 「あ、いや、そんな……」 戸惑うアタシを余所に爽子は「じゃ後でね!」と通話を切った。 ヤバい!ヤバい!ヤバいぃぃぃっ! 自分の置かれている状況が理解出来ていないのに、こんな状態で爽子になんか会える訳がない! 焦ってバタつくアタシを無視して時間は進んだ。
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