終章:想いを、重ねて……。

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『シシリエンヌ』が間もなく終わる。 それは、今回のコンサートでの響とエレナの共演が終わるということ。 (あぁ……もう終わり、か……。) 演奏をしながら、エレナは小さな溜息を吐いた。 (なんだかんだ言って……楽しかったわね。キョウ……あなたはどうだったかしら?) 響の方へ視線を向ける。 ぼんやりと、色でしか分からない響の姿。 しかし、エレナには響の今の表情や姿が手に取るように分かる気がした。 (きっと……笑ってるわよね。あなたも、楽しかったでしょう?だって、演奏が弾んで聴こえるもの……。) 最後の部分を、優しく弾くエレナ。 響の伴奏はまるで寄り添うように、エレナの演奏を優しく包んだ。 (本当に……キョウがカナデのことをただの教え子だと思っていてくれたらなぁ……。) 響と初めて出会った日、印象は最悪だった。 『天才』という言葉が大嫌いなエレナ。 そんなエレナも前に現れた響は、まぎれもない天才だった。 そんな響とデュオを組むとマティウスに言われたとき、正直嫌で仕方がなかった。 しかし、練習や行動を共にすることによって、性格こそ違えども、エレナと響は演奏家としては『同じ』部類であることを知った。 才能に胡坐をかかない、努力をする天才だということ。 それを知った時、これまでの先入観は次第にエレナから消え去り、後から現れたのは、恋心と言う感情だった。 響と演奏をするのは楽しかった。 自分の演奏についてくる、自分の要求に答えてくれる演奏家など、今までにいなかったから。 そんなエレナが事故に遭い、しばらく演奏から離れている間に、響と奏の距離は縮まった。 そしてようやく演奏家として復帰した矢先に、今度は響が怪我をした。 響とエレナはすれ違った。 その間に、奏が響に寄り添った。 (神様って、本当に気まぐれなのよね。でも……キョウが自分で選んだのだから、きっとそれは最高のパートナーなのよ、カナデは。) エレナは、奏の席の方を向く。 自分が招待した席だ。場所は分かっている。 (カナデ……あなたより私の方が相応しいと思った時には、遠慮なくキョウを奪いに行くからね。しっかり、キョウについていきなさい。そして……支えてあげて。この人、私なんかより何倍も不器用で世渡り下手な人だから……。) それは、奏に対しての素直な祝福。 そして、自分の想いに対する決別。 心では思ったが、本当に響を奪いに行くつもりはない。 奏のことは人として信用しているし、演奏家としても一目置いている。 (頼んだわよ、私の数少ない女友達……。) 演奏が終わると、エレナは奏に向かって微笑んだ。
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