第33章:証

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会見が始まると、予想通り奏のコンクール出場についての質問が相次いだ。 「このタイミングでコンクール出場を決めた理由は?」 「今のままでは、自分のピアニスト生活に納得がいっていないということですね?」 「世界のどのくらいの位置に自分がいるとお考えで?」 それは、奏の気持ちや意志よりも、世界のピアニストとしての位置だったり、日本でのピアニスト生活について言及するものが多かった。 同時刻、テレビの前で会見の様子を見ていたうた。 「なにあれ……言いたい放題言っちゃって……。」 うたは、各局の質問の内容に不満をにじませていた。 奏の気持ちに寄り添う質問など無く、SNSで話題になっていたり、批評が相次ぐ質問ばかり。 これにはさすがの父・源治も会見中止の合図を部下に出した。 しかし……。 (大丈夫だから。) そんな源治に奏は右手で『ストップ』の合図を出すと……。 「私の決断で、多くの日本のファンの皆様の期待を裏切ってしまったのは自覚しています。コンサートやテレビ出演などを楽しみにしてくれていた方もたくさんいると思います。まずは、そんなファンの皆さんに、心からお詫び申し上げたいと思います。本当にごめんなさい。」 まずは、批判について受け止めるべきところをしっかりと受け止め、謝罪をした奏。 そして、自分の話を続ける。 「私は、『あるピアニスト』の演奏を聴き、感動して高校生からピアノを始めました。ピアニストとしては、始めるのが遅すぎでした。だから、よくこう言われたものです。金持ちの道楽だとか、どうせすぐに飽きるだろうって……。」 奏は、自身に向けられている批判にも、しっかりと向き合っていたのだ。 「でも、私は片手間でピアノを始めたわけでもないし、暇だから始めたわけでもないんです。本気でピアノが弾きたくて……、私も、誰かを感動させられるようなピアノが弾きたくて、ピアニストを目指したんです。」 その瞳には、決意と熱意が宿っている。 「私も、いつか人に感動を与えられるような、そんなピアニストになりたいんです。演奏することで、誰かを幸せにさせたり、生きる活力を与えたり……諦めていた何かにまた向き合えたりするような、そんな演奏が出来るピアニストに……。」 響のようになりたい。 そう言ってしまえば一言で済むのだが、それでは自分の言葉で説明したことにはならない。 響に頼ったことになってしまう。 奏は、自分の言葉でしっかりと、丁寧に説明がしたかった。
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