終章:想いを、重ねて……。

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「これは……驚いたな。」 ふたりの化学反応とも言える進化に、一番驚いたのはマティウスだった。 「まさか……これほどまでとは。これじゃ、他の団員たちもついていけない領域じゃないか。これは、大仕事になりそうだね……。」 響、そしてエレナのレベルまで他の団員たちをレベルアップさせるという大仕事。 これが成ったとき、ドイツ交響楽団は世界でも他の追随を許さない、そんな楽団へと成長するだろう。 「本当に……なんなのこのふたりは……。」 一方、客席でふたりの演奏を聴いている奏も、その完成度が高まったことに驚きを隠しえない。 「悔しいけど……いまの響さんに、いちばん実力の近い演奏者はエレナなんだと思う……。いつか、私だって……!!」 実力では、まだまだ響には至れない。 それでも、心が通じ合っていれば、響の演奏に対する姿勢が、そして情緒が分かるはず。 奏は、『一番のパートナー』よりも『唯一のパートナー』を目指そうとしている。 「おいおい……彼、こんな演奏できたっけ?」 「まぁ……素敵。ふたりとも、お互いの長所を良く高めあっているわ、こういう演奏は……本当に楽しそう。」 「麻生さんは……学生の時からそうだった。誰と組んでも、水準以上の曲になる。どこにそんな魔力があるのかしら、と思うほど……。」 そしてまた一方では、インターネット配信でこのコンサートを視聴する、世界最高峰のピアニストたちが、ふたりの演奏に率直な感想を送っていた。 先日の、奏も参加したコンクールをきっかけに親睦を深めたピアニストたちは、オンラインで通話しながら、響の復活を見ている。 「しかし……本当に奇跡は起こったんだねぇ。僕は本音を言うと、以前みたいにピアノを弾くのはもう不可能なんじゃないかって思っていたよ。」 そういうのは、セドリック。 そうは言いながらも、その視線は画面に釘付けになっている。 「私も、正直難しいと思ってました。病気ではなく、外傷ですから……。でも、良かったわ、本当に。」 そして、クロエ。 彼女もまた、ふたりの演奏を楽しそうに聴いている。 「私は……信じてました。麻生さんがもう一度、最高の舞台でピアノを弾くことを。そうじゃなきゃ……、奏ちゃんも、そしてさくらさんも悲しむと思ったから。」 翠は少し涙ぐみながら、響の姿を画面越しに見る。 (いつか……さくらさんとの約束が守れなかった分、麻生さんと一緒に演奏したい。さくらさんが信じ、愛した人がどんな演奏をするのか、それを身近で感じたい……。) 翠の夢のひとつ。 それは、『響と共演し、さくらの話を思いっきりすること』だった。
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