第3章:cherry blossom

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早々に喫茶店を出て。 駅前にあるライブハウスに入る。 「こんにちは、マスター!」 奏が入口カウンターの男に声をかける。 「お!奏ちゃん!今日も相変わらず綺麗だねぇ!……洋司はもう来てるぞ。まだかってイライラしてたけどな!」 マスターと呼ばれた男は豪快に笑う。 「放っておけばいいのよ!……じゃ、部屋借りるね!本当にいいの?代金……」 奏たちは、このライブハウスのスタジオを無料で借りていた。 「いいってことよ!あの『二宮 奏と石神 うた』がここに来てるってだけで、売り上げが上がってるんだ。ちゃんと報酬はもらってるよ。」 早くいけよ、とマスターが奥の部屋を指さす。 防音された部屋ながら、不機嫌そうにギターの音が響いている。 「ありがと!……今度、喫茶の方もお手伝いするね!!」 「ありがとうございます!私も……何かお手伝いすることがあれば……」 手を振る奏と、控えめに会釈するうた。 そんなふたりを笑顔でマスターは見送ると…… 「そんな事されたら……こんな小さなライブハウス、人込みで潰されちまうよ」 ……と、そこは苦笑いで呟いた。 「おせーよ!」 スタジオに入ると早速、ギタリストの男がふたりに不機嫌そうな表情を見せる。 うたは申し訳なさそうに、 「ごめんね島田くん……話、盛り上がっちゃって……」 と謝り、奏は…… 「ごめんごめん、そんなに怒らないでよ、洋司!……イケメンが台無しだぜ!」 と、笑いながら言う。 ギタリストの男。 島田 洋司。 奏とうたの、高校時代の同級生であり、今はソロアーティストのバックバンドを依頼されるほどの凄腕ギタリストである。 アコースティックでもエレキでも……彼の奏でるギターの音は、魂がこもっている。歌手にフィットした、完璧な音だと、業界内の評価も高い。 「次世代の筆頭ギタリスト」 とも言われるほどの逸材。そんな洋司は、半年前の同窓会で、奏にこのバンドに誘われたのだ。 「洋司、私……バンドとか良く分からないから、経験とその力を貸してくれない?……どうしてもね、完成させたい曲があるの。」 2年前、響から託された曲。 うたと二人で伴奏と主旋律は書き上げた。 『ピアノと歌』 という、シンプルな構成であれば、もう完成している、この曲。 しかし、うたも奏も、それだけでは納得しなかった。 『もっと、もっとこの曲は美しくなる』と……。
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