第3章:cherry blossom

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「二宮……遅れてる。伴奏のメインはピアノだろ?石神が歌い辛いじゃないか」 練習開始早々。 洋司が演奏を止めて奏に注意。 「えー?ここは感情を乗せて弾くところでしょ?」 「それは、ソロの場合。石神が歌ってる以上、伴奏は自分の感情でペースを動かさない。曲全体に影響するだろう?」 バンド初の奏と、バンドから成功した洋司。 経験値は洋司の方が明らかに上である。 奏も、その経験と高い技術を買って、洋司を誘ったのだ。 「……まぁ、二宮はちょっと見てろ。……石神、歌えるか?」 「うん。……ここからでいいの?」 「あぁ。……行くぞ。」 1小節前の部分から、洋司がギターを鳴らす。 その調べは優しく、歌う前からうたがハミングをしている。 そして、うたの声が重なり…… (おぉ……) 奏がそのピッタリな波長に驚き、聴き入る。 うたの声にまるで寄り添うような、洋司のギター。 歌っている間は自分を主張せず、僅かなブレスや間奏の間だけ、その技術を披露する。 「……分かったか二宮。これが『伴奏』だ。」 大体のところまで弾き終わると、洋司が奏に言う。 奏も、正直悔しかったが、うたと完璧にシンクロして見せた洋司に、何も言い返せなかった。 「う~……伴奏、慣れてなくて悪かったわね……。」 「俺は、伴奏しかやってない。ま、失敗しながらやって行けばいいさ。」 こればかりは仕方ない、と楽譜をぱらぱらと捲る洋司に、 「洋司って……そんなに穏やかなキャラだったっけ?昔は、自分以外はイモだ、みたいな雰囲気だったのに。」 ……思っていることを率直にぶつける奏。 そんな奏の言葉に、洋司は大きなため息を吐くと、 「偏見もいいとこだ。少し休憩入れるか?」 と、隣のうたに問う。 練習の間は、当然うたは歌いっぱなし。 練習時間は、うたのコンディションで決まると言っても過言ではない。 「うん、じゃぁ少しだけお休みしようかな。」 ごめんね、と苦笑いのうたに、 「声は楽器じゃない。メンテすれば調子が上がるわけでもないからな。」 洋司の言葉に、さすがにうたも、 「確かに……島田くんって、優しいんだな、って思った。高校時代のイメージ、偏見だったみたい……。」 申し訳なさそうに言う。 「お前ら……俺をどんなキャラだと思ってたんだよ……」 同級生の女子2人の言葉に、やや翻弄され気味の洋司だった。
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