150人が本棚に入れています
本棚に追加
/1195ページ
「二宮……遅れてる。伴奏のメインはピアノだろ?石神が歌い辛いじゃないか」
練習開始早々。
洋司が演奏を止めて奏に注意。
「えー?ここは感情を乗せて弾くところでしょ?」
「それは、ソロの場合。石神が歌ってる以上、伴奏は自分の感情でペースを動かさない。曲全体に影響するだろう?」
バンド初の奏と、バンドから成功した洋司。
経験値は洋司の方が明らかに上である。
奏も、その経験と高い技術を買って、洋司を誘ったのだ。
「……まぁ、二宮はちょっと見てろ。……石神、歌えるか?」
「うん。……ここからでいいの?」
「あぁ。……行くぞ。」
1小節前の部分から、洋司がギターを鳴らす。
その調べは優しく、歌う前からうたがハミングをしている。
そして、うたの声が重なり……
(おぉ……)
奏がそのピッタリな波長に驚き、聴き入る。
うたの声にまるで寄り添うような、洋司のギター。
歌っている間は自分を主張せず、僅かなブレスや間奏の間だけ、その技術を披露する。
「……分かったか二宮。これが『伴奏』だ。」
大体のところまで弾き終わると、洋司が奏に言う。
奏も、正直悔しかったが、うたと完璧にシンクロして見せた洋司に、何も言い返せなかった。
「う~……伴奏、慣れてなくて悪かったわね……。」
「俺は、伴奏しかやってない。ま、失敗しながらやって行けばいいさ。」
こればかりは仕方ない、と楽譜をぱらぱらと捲る洋司に、
「洋司って……そんなに穏やかなキャラだったっけ?昔は、自分以外はイモだ、みたいな雰囲気だったのに。」
……思っていることを率直にぶつける奏。
そんな奏の言葉に、洋司は大きなため息を吐くと、
「偏見もいいとこだ。少し休憩入れるか?」
と、隣のうたに問う。
練習の間は、当然うたは歌いっぱなし。
練習時間は、うたのコンディションで決まると言っても過言ではない。
「うん、じゃぁ少しだけお休みしようかな。」
ごめんね、と苦笑いのうたに、
「声は楽器じゃない。メンテすれば調子が上がるわけでもないからな。」
洋司の言葉に、さすがにうたも、
「確かに……島田くんって、優しいんだな、って思った。高校時代のイメージ、偏見だったみたい……。」
申し訳なさそうに言う。
「お前ら……俺をどんなキャラだと思ってたんだよ……」
同級生の女子2人の言葉に、やや翻弄され気味の洋司だった。
最初のコメントを投稿しよう!