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「……で。お前達さ、この曲はどこまで作り込めば『完成』になるんだ?上々の出来じゃないか。」
ジュースを飲みながら話し込むふたりの間に、洋司が割って入る。
「うーん……なんとなく、まーだまだ?」
奏は、感覚的に。
「この曲はね、もう少し作り込まなきゃダメなの。大切な、大切な曲だから。大切な人が私達に託してくれた……その人の大切な人の曲。だからね、私と奏ちゃんが、これ以上は作れない!……ってくらい作り込んでおきたいの。」
奏も、同じことを思っているだろう、と自信の気持ちを素直に洋司に伝えるうた。
「……麻生 響のか?」
洋司は、ふと、思い付いた名を口にする。
奏が想ってやまない、そう確信した相手の名を。
「……そんな、簡単なものじゃないのよ、洋司。」
奏は、少しだけ寂しそうな表情を洋司に向け、洋司はその向けられた表情に戸惑う。
「確かに……響さんに託された曲ではあるんだけどね。作ったのは……響さんの家族、って言っていい人なの。誰よりも響さんを知ってて、誰よりも側にいた人。そして、私達が近づきたかった人……。」
優しげな表情。
しかし、憂いを秘めた目で、うたが洋司に語る。
「へぇ……って石神がそれだけ熱く語るって……相当本気、なんだな。」
うたを見ながら。
今度は真剣な表情で訊く洋司。
「……うん。本気だよ。私達の音楽人生を賭けちゃうくらい……ね。」
そんな洋司に、にこりと微笑み、しっかりと返すうた。
「……だからね、奏ちゃんも必死なの。あんなに誰かに教えを乞う奏ちゃん、見たことある?」
ふふっ……と笑い、奏を見る。
「確かに……。」
洋司も、そこには驚いていた。
奏は、高校時代から天才肌。
何度か譜面を読み、曲を1度聴けば、技術はすぐに並み以上に調整する。
そこに、独自の解釈と情感で曲を作り上げる。
反復せずとも常人のレベルを軽く超える。それが奏なのだが。
『この曲』に限り、奏は事あるごとに洋司に教えを乞う。
弾き方、タメの作り方……
『伴奏』とはどういうものか。
一刻も早くモノにしようと、奏は努力を怠らない。
「ごめん洋司!……私、伴奏を甘く見てたわ!」
深々と頭を下げた、初回の練習。
そこに、洋司は奏の決意を感じた。
「まぁ、それだけ本気なら、俺もしごき甲斐があるってもんだ。」
やれやれ、と笑う洋司に、
「お手柔らかにね」
と微笑むうただった。
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