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「……んで?お前たちさ、その後あのピアニストとはどうなの?」
駅前のお好み焼き店。
店のチョイスは奏だった。
「せっかくだから、がっつりお腹いっぱい食べる!!」
そんな奏の閃きが、このお好み焼き店だったのだ。
「響さん?……洋司、いま、その話はしないで。……会いたくなる。」
奏がテーブルに突っ伏す。
「おい石神、こいつ……何かあったのか?」
奏の反応から、そんなに深刻なものではないのだろうと判断し、うたに訊ねる。
「奏ちゃんね、我慢できずに会いに行ったの、ドイツまで。そうしたらね、響さん、すれ違いで日本公演に来ちゃったの!……私は会えたんだけど、奏ちゃんは……」
気まずそうに奏を見遣るうた。
「お待たせしましたー!」
注文していたお好み焼きのタネが……
「……誰が6枚分も頼んだ!!」
「……うっさいわね~。うた、焼いて~」
「はーい!……豚玉から焼くよ~」
丼ぶり6個のうち、ひとつを手に取り、手際よく焼いていくうた。
「二宮も、普通に待ってればすれ違わずに済んだんじゃね?」
洋司は笑いながら奏に言う。
「……いつ来るかなんて分かるか!!」
「そんなの、交響楽団のサイト、お気に入りに入れとけば一発じゃねぇか。公演情報とかもあるんだろ?」
「……あ」
「……そうか」
うたと奏が、揃って声を上げる。
「おいおい……そのくらいチェックしとけよ……」
ふたりのリアクションに、呆れ顔の洋司。
「もーいい!!食べる!!」
「はーい、出来たよ~、じゃ、奏ちゃんは大き目ね。」
奏が「食べる!」といったタイミングで、うたがお好み焼きを奏にとりわけ、次いで洋司に取り分ける。
「はい島田くん、熱いから気を付けてね。」
そんなうたと奏を交互に見遣る洋司。
「二宮……このままだとお前、石神に負けるぞ?手際と言い気配りと言い……完璧じゃないか。」
そんな洋司の言葉を、突っ伏したまま聞く奏。
「そーんなの、響さんだって知ってるわよ。でも無理。料理と癒し系だけは絶対にうたにはかなわない。」
……すでに、勝負すらしていなかったようだ。
「私は、奏ちゃんのカリスマ性とか、物怖じしないところとか決断力とかは勝てないな~」
うたも、奏の長所を述べる。
洋司は、その時思った。
(きっと、お互い真逆のタイプだから、かえってうまくいくのかも知れないな……」
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