151人が本棚に入れています
本棚に追加
/1195ページ
「お腹いっぱ~い……」
「私、もう無理だわ……」
「ってか、6個とかバカか……」
1時間後。
座敷にて満腹で苦しむ3人。
「6,800円になりまーす♪」
レジでの精算。
洋司のおごりだと言っていたので、財布を持って先頭に立ったのだが……
「……3人の会計じゃねぇ……」
呆れ顔で精算を済ませる。
「ごちそうさま~♪」
「なんか……ごめんね島田くん……」
腹をさすりながら満足げな奏と、申し訳なさそうに洋司の横で頭を下げるうた。
「……んで?結局お前ら、何に焦ってるんだ?」
大きく溜め息を吐いてから。
洋司は練習の時から感じていた疑問をうたにぶつける。
「……え?」
うたが、はっと目を見開いた。
「練習の時から、演奏も歌も走りっぱなし。でもやめようともしない。そして最終的にはやけ食いだろ?……まぁ、やけ食いはともかく、俺だって演奏者だ。毎日聴いている音楽が違えば、気づくさ。」
珍しく語る洋司に、うたは照れ笑いを浮かべる。
「島田くん、やっばり凄い人なんだね。……ご明察。」
奏は、さっさと前を歩いている。
「ねー見て!星がこんな街中でも見えるよー!」
明るくこちらを見て笑う奏を見て、うたも優しい笑顔で手を振り応える。
「同い年のね、天才演奏家がいてね。その人は、響さんと対等に肩を並べててね。異性としても魅力的でね……。」
打ち明ける度に、うたの胸が痛む。
自分は劣っている。
そう認めて口に出すことが、辛かった。
「だから、早くあの位置まで行きたくて……響さんと肩を並べたくて。」
次第に、言葉から力が抜けていく。
「私たちの事も……見て、欲しくて。」
うつむき、目に涙を溜めた。
洋司はそんなうたの話を黙って聞いていたが、うたが泣きそうなのを見ると、
「……だから、何だよ。」
と、笑いながら言う。
「…………え?」
「もともと、その響ってのは、何しにドイツへ行ったんだ?お前達に愛想をつかしてか?」
やれやれ……と空を見ながら言う洋司。
「お前達に何て言ったかは知らねぇが……お前が再会して、とっくに見捨てられてるなら、今後もへったくれも無いだろ。お前が並びたいと感じているなら、そいつは『変わらないでいる』からなんじゃねーの?」
再び、洋司が語る。
響とは面識の無い、洋司の言葉。
しかし、その言葉には力が込められていて…………
何より、説得力に溢れていた。
最初のコメントを投稿しよう!