序章:わたしの『音楽』

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序章:わたしの『音楽』

「Sind Sie bereit?」 (準備は良いか?) 超満員の客席。 ざわめきが聞こえてくる舞台袖で、男は問う。 「Ich habe bis jetzt gibt es Zeiten, in denen das nicht bereit war?」 (私が今まで、準備できてなかった時がある?) ふんっ、と不機嫌そうに、女が答える。 「Gehen wir rein. Das Publikum wartet.」 (じゃぁ行こう。お客さんが待ってる。) 男が、右手を軽く上げる。 女は、上げられた男の右手を、パンっ……と叩く。 長身の、タキシードの日本人と、紫色のドレスを着た、金髪でロングヘアーのドイツ人。 今日は、ふたりの6回目のコンサート。 『Kirschbaum』 ドイツ交響楽団が送る、至高のユニット。 ピアニスト、麻生 響 バイオリニスト、エレナ・クーガー このふたりが織り成す音楽は、聴く者全てを魅了してきた。 響の天才的なピアノの伴奏に合わせて弾く、もうひとりの天才エレナの、攻撃的かつ情熱的なバイオリンの音色。 それがこの『Kirschbaum』の魅力でもあった。 響の名は、既に2年前から世界的に知られていた。 日本が誇るピアニストは、ドイツの地で、『世界トップクラスのピアニスト』となっていた。 そして、エレナ。 若冠二十歳にして、世界一の交響楽団と言われる、ドイツ交響楽団のバイオリン第一奏者に名乗りをあげた天才である。 発掘したのは、世界一の指揮者と名高い、マティウス。 そんなマティウスも、エレナの才能には驚かされた。 「エレナは、1000年にひとりの逸材だよ。」 そう、言わしめた程である。 その実力もさることながら、すらりと伸びた細く白い手足、抜群のスタイルに透き通るような青い瞳。 金の腰まである長い髪に、美しい顔立ちという、抜群のルックスで、世界的に人気が上がってきていた。 ふたりの6回目のコンサート。 ここから、物語は始まる。
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