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黄色い歓声、動揺と焦慮。
巻き起こるざわめきは届かない。
だって、だって。
振り向いた先、瞳が映し出したその姿は。
「神崎琉生(かんざきるい)…?」
風貌こそ多少の差異はあるけれど、その憂えたような穏やかな微笑は何度も何度も、夢にまで見たほどに見慣れたもので。
目が合った途端にふわりと綻ぶ目元も、変わらない。
「そういう君は、如月維月(きさらぎいつき)くん?」
耳を擽る甘い声。
…少し、低くなった
一方で昔はさほど大きな差はなかったはずの背丈は、今や見上げるくらい高い。
こくん、と頷く身体に反して心は首を振る。
違う、そんな名前じゃない。
叶うならもう一度呼んで欲しい。
昔みたいに…
「そう……じゃあ」
唐突に、今までの朗らかさが色を失って。
知らず、身体が震えた。
見下ろしてくるその瞳は、俺を映しているようで、映していない。
きっと誰も気づいていない。
見つめあっているようで、一方通行な視線に。
足元から、寒気が這い上がっては身体を凍てつかせていく。
「なに、してたの?」
冷たい。
暖かな記憶が、遠ざかる。
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