0. プロローグ

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今でも見る夢がある。 私の知る限り、一番私の世界が色付いていた時の夢。 それまでの私は薬品の匂いが染み付いた真っ白な箱に閉じ込められ、することも無くただ一人、無為に過ぎる日々を倦厭していた。 それでも、硬いベッドの上で永遠にも感じる一日を、人形のように何の感慨も無く過ごすよりは、と。 体力と時間の許す限り、外に飛び出した。 特に何をする訳でも、暇つぶしのアテがある訳でもなく。 一日の内に何十回も、同じところを歩き回っていた。 そんなことを、いつまでも、いつまでも。 いつかこの身が腐り果てて動かなくなるまで、そんな壊れた日常を続けるのだと。 思っていた。思うしかなかった。 なのに。 『遊びにきたよ!』 あぁ、神様は気まぐれで、イジワルだから。 こんな私の前にも、希望を、幸福をちらつかせて、脆弱で臆病な私を弄ぶ。 あどけないはしゃぎ声が、いつも少し遠くから。 子犬みたいに走ってくる。 悪戯心で裏庭の茂みに身を潜めたとしても、絶対に見つけてくれて。 『かくれんぼさんみーつけた!ね、次は何してあそぼっか』 なんて、当たり前みたいに手を引いて、ふわりと柔らかく笑って。 それが、毎日続いた。  
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