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プツリと、夢はいつもここで途切れる。
彼が残した最後の言葉に、私は応えるべきではなかったのかもしれない。
『ずっと待ってる』
なんて。待てないことは十二分に理解していたのに。
けれど、もしも今あの瞬間に戻れたとしても、きっと私は同じことを言うのだろう。
だから、間違っていたとは思わない。
あるのは、ちいさな心残り。
私は彼に嘘を吐いて、本当の名前を教えなかった。
外で会うばかりで一度も私の部屋に来たことはなかったから、プレートに書かれた本名は恐らく気付かれてない。
知られたくなかった。
居なくなるだけの私という存在は、重荷でしかないから。
私が去った後のあの場所に、彼は足を運んだだろうか。
私の残滓を、探して、探して、探して。
けれどどこにも見つからないだろう。
名前が違うなら当然のこと、それを見越した上で偽名を名乗ったのに、心残りになるなんて思わなかった。
これほど彼に依ってしまうなんて、出会った当初は考えもしなかった。
けれど。
覚えていなくていい。
幽霊にでも会ったと、そう思ってくれればいい。
あの時、離別は永訣と同義だった。
彼だけが、それを知らなかった。
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