0. プロローグ

5/6
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/221ページ
プツリと、夢はいつもここで途切れる。 彼が残した最後の言葉に、私は応えるべきではなかったのかもしれない。 『ずっと待ってる』 なんて。待てないことは十二分に理解していたのに。 けれど、もしも今あの瞬間に戻れたとしても、きっと私は同じことを言うのだろう。 だから、間違っていたとは思わない。 あるのは、ちいさな心残り。 私は彼に嘘を吐いて、本当の名前を教えなかった。 外で会うばかりで一度も私の部屋に来たことはなかったから、プレートに書かれた本名は恐らく気付かれてない。 知られたくなかった。 居なくなるだけの私という存在は、重荷でしかないから。 私が去った後のあの場所に、彼は足を運んだだろうか。 私の残滓を、探して、探して、探して。 けれどどこにも見つからないだろう。 名前が違うなら当然のこと、それを見越した上で偽名を名乗ったのに、心残りになるなんて思わなかった。 これほど彼に依ってしまうなんて、出会った当初は考えもしなかった。 けれど。 覚えていなくていい。 幽霊にでも会ったと、そう思ってくれればいい。 あの時、離別は永訣と同義だった。 彼だけが、それを知らなかった。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!