961人が本棚に入れています
本棚に追加
「お茶の温度は60度って…
前も言っただろうが」
備え付けのパイプ椅子に腰掛けた俺が、フーっと長い溜め息をつくと、赤野はすっかり悄気かえり、もじもじと指を弄んだ。
「そっちですか。
うう、ポットのコンセントが抜けてて」
「まあ、俺が被ったお陰で、薄くてヌルイ茶は誤魔化せたし、俺はヤケドはしないで済んだ訳だけど」
「ですよね!
私も、あ、良かったな~って。
ホラ、不幸中の幸いっていうか…」
パッと上げた嬉しそうな顔に、俺は一喝した。
「黙れ!
これがもしお客様だったらどうする気だ。なあ赤野。お前ももう2年目だぞ?少しは成長しろ」
「うう…気を付けます。
……スミマセンでした」
彼女はしょんぼりと肩を落とし、俯いた。
「ま、まあいい。
次からは何もない所で転ばないように」
頭に軽く手を乗せ、少し強めに撫でてやると、
「ふぁい…」
彼女は小さく返事を返した。
説教は10分で止める主義である。
俺は、お茶の香りの染み込んだ湿ったスーツを脱ぐと、まだシュンとしている彼女に放り投げ、5000円札を渡した。
「これ、悪いけどクリーニングに出しといてくれるか。
ん?どうした?」
何をじろじろ見ているんだ。
首を傾げた俺に、
「あ、い、いえ。
脱ぎっぷりが何やらセクシーで…
いやぁ、お茶に濡れても相変わらずのキラキラオーラですね」
少し涙目の彼女は、照れ臭そうに頬を赤らめた。
「ば、バカッ、何を言い出すんだ!」
嬉しいじゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!