誘い

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「と、時に赤野」 「? はい」  俺は、既にドアノブに手をかけ、スタートダッシュを切ろうとしていた彼女を呼び止めた。 「あ~、明後日の退社後は…予定が入っているか?」  さりげなく言ったつもりが、不覚にも、声がうわずってしまった。 「明後日……」  天を仰ぎ、少しだけ考えていた様子の彼女は、しかし自信たっぷりに答えた。 「ああ、クリスマス・イブですよね。  勿論ガラ空きですけど?」  …哀れな奴。 「そそそ、そうか。(ホッ、良かった)  じゃあ、その日は予定を空けておけ。  その~、アレだ。  社会人の何たるかを、俺がたっぷりと教示してやろう。……覚悟しとけよ」 「え?…………  は、はいぃっ、分っかりましたぁ!」  彼女は何故か背筋を伸ばし、ピシッと敬礼の姿勢とった。  そうして、俺のスーツをシワが寄るほど握りしめ、やけに神妙な顔つきで部屋を出ていった。     「ふ、ふふふ」  やった、やったぞ俺。  クールに赤野を誘えたじゃないか。  ここまできたら、やったも同然。  そうさ。  たっぷりと教えてやろう『社会人』  ただし、ベッドの上でな。
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