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ちっ、何だよこんな時に……
スルーしようかと思いつつも、俺は胸ポケットからスマートフォンを取り出して画面を確認した。
『緊急事態発生!
Oホテル すぐきてネ♪
社長』
「……」
俺はぐっと奥歯を噛み締め、断腸の思いで席を立った。
「赤野、誘っといてすまない。
急な呼び出しで…これから出向かねばならん。
支払いは余分に済ませておくから。
充分楽しんだら、悪いがそこで寝てる熊野(バカ)をタクシーに突っ込んでやってくれ」
「うっわぁ、忙しいんれすね~。
カチョーは」
目を丸くする赤野。
「…最後に、一言だけ」
「は、はいっ」
俺が鋭く目線を流すと、反射的に赤野はピシっと固く背筋を伸ばした。
「社会人2年目の女として」
_ああ、クソッ。なんで_
俺は、彼女の肩にそっと手を掛けた。半分口を開いたまま、無垢な瞳で見上げる彼女。
_電源切っとかなかったんだよ_
淋しく笑んで見せた後、スッと手前に腰を折る。
「その鈍さは……罪だ」
「ひゃ…」
それはホンの一瞬。
俺は、掠めるくらいに、その上気した頬に口付けた。
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