最低、からの。

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 夢をみた。  うとうとと熱に浮かされて見たのは過去の悪夢、自分自身の黒歴史。  南の地方都市で生まれ育った。  中高一貫、野球部の6年間を坊主頭で過ごし、しかも補欠だった俺に、彼女が出来たことは1度もない。  あれは高2の夏のこと__  その時たまたま失恋したてだったマネージャーの子に誘われ、俺は初キスを体験した。  感動にうち震えていた俺に彼女は愛らしく微笑み、そして言った。 『ヘタね』  その後。  家族が寝静まってから俺は夜毎ごとに消防士の親父の人工呼吸練習人形『救命くん』でこっそり練習した。  ある日、その姿が姉貴に見つかり、散々バカにされた。  恥ずかしくて死にそうだった。  大学進学でこっちにきた俺は、生まれて初めて髪を伸ばした。  驚いたことに、すぐに彼女が出来た。  手を繋ぐところから3カ月、ようやく漕ぎ着けた初体験。  終わった後、不思議な罪悪感と虚無感に襲われていた俺の背中に、彼女は面倒くさそうに煙草をふかしながら言った。 『見かけ倒しね』  その後俺が、どんな修練を積んだかは敢えて言及しないでおこう。  つまり何が言いたいかというと。  仕事にしろプライベートにしろ、全力の弛みない努力の末に今の俺の姿がある。  なのに、だ。  たいした努力もせず、只ノホホンと生きているあんな小娘に、こんなに心を掻き乱されるなんて…  「あ~、くそっ」  やり場のない苛立ちに、寝返りを打った時だった。  ♪ピンポ~~ン♪
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