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「……キライなんだよ、病院も薬も。ろくな思い出がない」
「ダメですよ!
子供じゃないんだから…
そうだ、せめて薬だけでも」
赤野は慌てて卓上の薬を選び始めた。
「いいって。
さ、暗くなるからもう帰れ」
デカブツに邪魔されない、千載一遇のチャンスを逃すのは癪だが…
仮にも俺は管理職。
部下の安全には細心の注意を払わねばならん。
「ダメですよ!
あ、あった。はいどうぞ」
「要らねって」
「ダメ!!」
オカンか、テメーは。
きっと、熱のせいなのだろう。
珍しく眉を吊り上げた彼女が、ひどく愛(いとお)しくって…
俺は少しだけ、困らせてやりたくなった。
「じゃあ、お前が飲ませて。
口移しで」
「は………はい?」
ハハ、予想通り。
円い目をもっと円くして、
『聞き違いか?』って、
困ったみたいな顔してる。
やっと言葉を呑み込んで、本気で困りはじめた姿に、俺はうっすら微笑んだ。
「冗談だよ。
さ、風邪が染るから早く帰れ。
明日は里帰りすんだろ。
…送って行ってはやれないけど」
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