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「じゃあ…」
心持ち残念そうに見えるのは、俺の願望か。
気の抜けたような様子で立ち上がった彼女に、俺は軽く手だけを振った。
と、思いきや。
彼女は玄関には向かわずに、テーブルを回って俺の前で膝をついた。
「あ、あの…口移しはムリなんですけど…」
「は?」
彼女はさっきから握りしめていた薬瓶の蓋を開けると、“んっ” と決意したように頷いた。
そして__
その1錠を唇の端からそっと押し込んできた。
「お…い」
彼女の指が、ホンの少しだけ唇に触れる。
「何して……」
言い終わる前にまた1錠。
羞恥に指を震わせながら、同じように挿れてくる。
_こ、コイツは_
止めろとも言えず、なすがままにされていると、
「えーっと、あと1錠か」
彼女は箱の説明書きを再確認し、小さな粒を1つ摘まんだ。
猛獣に餌をやるみたいに、フルフルと震える手を近づけてくる。
_バカが。
そんなコトされたら、俺はもう_
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