3人が本棚に入れています
本棚に追加
「けん、た…」
そう、中に入ってきた女は呟いた。
俺?俺を知ってるのか?俺はこんな女しらないのにこの女は俺を知っている?
そう思うと急にゾッとした。ストーカーだかなんだか知らないが、血まみれの女が家に勝手に入ってきて自分のことを知っている。
何が目的かもわからない。家の玄関の前で血まみれで寝っ転がって、罪を俺になすりつけて訴えて慰謝料でも取るつもりだったのか?それとも玄関までストーキングして、水希と同棲してることを知って自殺をはかったのか?
「くそ、なんなんだよ…」
手は震えて呼吸も短くなるほどの恐怖の足元から、その女に対するとてつもない怒りが湧き上がってきた。
何気ないいつも通りの水希との日常を壊しやがって…そんな怒りだった。
「ねぇ、健太、これからどうするの?」
半泣きの水希が震えた声で聞いてくる。こんな異常事態なのだ、無理もない。むしろ泣き叫ばないだけ水希は強いと思った。
「とりあえず様子を見よう、もしかしたら、しばらくすれば家から出ていくかもしれない。」
水希をこれ以上不安にさせちゃダメだ、俺がしっかりしないと…そう思い、無理に笑顔を作ってみせる。水希は一瞬驚いたが、頷いた。
女は俺たちが隠れているリビングの方まできた。けんた、けんた、どこにいるの?痛いよ、助けて、などとブツブツ言いながらリビングを歩き回っている。敷きっぱなしの布団に血が滲んでいき、汚れていく。
「あの出血だ、そのうち貧血で動けなくなる、そうしたら逃げよう。」
それか…。チラ、と手元の包丁を見る。
もし、もしもの時は、やらなきゃ、やらなきゃいけないんだ。俺が水希を守らなきゃいけないんだ。
「、それ、懐かしいね」
俺が手元を見てると、水希が俺の手の薬指の指輪を撫でた。
最初のコメントを投稿しよう!