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第一錠:猿渡 健太の体験
暖かい春の日差しが部屋を照らす。その日差しが眩しくて不意に目を覚ました。無理な体勢で寝ていたのか身体が痛く重い。まだ寝ぼけつつも寝返りをうつと隣にはスヤスヤと寝ている彼女がいた。
「…おはよ、水希(ミズキ)」
寝ている彼女の頬を撫でると、少しうっとうしそうな顔をする。そんな彼女に微笑みかけ、猿渡 健太(サワタリ ケンタ)はようやく布団から抜け出した。
10畳程のワンルームに2人で無理に住んでいるため、部屋は少し散らかっている。その辺にほっぽり出してある部屋の電気のリモコンで電気をつけ、ついでにテレビもリモコンを拾い上げてつける。
テレビでは朝のニュースがやっていた。
「…というわけで、この"非日常体験薬"を使えば、ヴァーチャルリアリティのように非日常体験を気軽に味わえるようになったわけです。」
非日常体験薬。
最近はそんなものが流行っているのか、とため息をつく。
非日常体験薬とは最近できた新薬で、その名の通り非日常を気軽に体験出来るものだ。錠剤を飲む時に手の上に乗せ、見たい非日常体験を思い描く。思い描くのはアッサリでも、詳しくでも構わないらしい。そうすると手から分泌された汗やら匂いやらを吸収し、その「願いの詰まった錠剤」を飲めば願ったことが夢として現れる、というものだ。
「ま、俺は幸せだからそんなもの要らないけどね…」
可愛い彼女に充実した大学生活、それだけでもう充分、刺激なんて要らない。
そんなこと考える俺、かっちょいい~なんて思いながら大学に行く準備をする。カジュアルだが少し高めの服を来て、シンプルな皮のバックを持つ。今日の授業なんだっけ、だり~と思いながら玄関を開ける。
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