御神木

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御神木

 うちの町には御神木と呼ばれる木がある。  由来はよく知らないけれど、傷つけてはいけないということは町中のみんなが知っていた。  でも、御神木の生えている場所に道路が作られることになって、御神木を切ろうという話が持ち上がった。  かなりの人間がそれに反対したけれど、国の決定と言われると強く出られないし、そもそも御神木の生えている土地自体が、所有者のよく判らない土地だとかで、反対意見は完全に無視され、御神木は切り倒された。その際、祟りがあると慄く人が多かったが、御神木の切断時や工事の際に事故があるということもなく、二年とかからずその場所は道路になった。  御神木と呼ばれていたけれど、噂に過ぎない言い伝えだったのではないか。完成してしまった道路を見てそう言う人達がいたけれど、半年も経たないうちに、あれはやはり、触れてはいけない御神木だったのだと、誰もがそう噂するようになった。  新しくできた道路は見晴らしがよく、できたばかりなので道路状態もいいので、多少スピードを出したとしても、普通なら事故などそう起こりそうにない道路だった。なのに僅か半年足らずで、二桁に達する死亡事故が起こったのだ。  命こそ助かっても、後遺症が残るような事故に遭った人はさらに多く、それでも辛うじて『助かった』という状態に分類される人達は、口を揃えて事故の時にこんな言葉を聞いたと言った。 「人間なんてみんな一緒。全部滅べばいい」  あの木がどうして御神木と呼ばれ、祀られて触れることすら憚られるようになったのか、知ってる人は誰もいない。でも、その噂が語り継がれてきた以上、元となる理由はあった筈だ。  だけど触れなければとりあえず穏やかだった木はなくなり、もう、祀られていた『何か』を鎮めることはできない。  あれ程反対を押し切って作られた道路は、今は地元の人間は誰も利用せず、たまに、何も知らずに遠方からやって来た人や車がそこを通って、程度は軽いがかなりの確率で事故を起こしている。それを見た周辺住民は、自治体に相談し、道路を通行止めにしてしまう訴えを出しているらしい。  世の中には、そう言われ続けてきた以上は、触れてはならないことがあるんだねと、町の人はみんなそう言っている。 御神木…完
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