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プロローグ
若い頃の母が住んでいたバーランド家の別宅は、シエラニーナから聞いた以上に手入れが行き届き、イグノトルは母がひょっこり顔を出してくるような懐かしい錯覚に陥った。
「おお、家具とかそのまま残ってるねえ、さすがシエラ。完璧な仕事ぶりだよ」
医務室から持ってきたわずかな荷物を遠慮しながら椅子に置き、ティオ・ノーラは珍しそうに部屋を見渡した。
「わあ……、思ってたより広いー」
「一階が居間になってて、奥にお風呂もあるよ。二階は寝室ね。窓の外はバルコニーがあるからお洗濯ものも干せるよ。ここが嫌なら別の物件探すけど、どうする?」
「そ、そんな。ぼく、王宮から近いし、広いし、ここがいいよ。でもイグノトルさま、ここから王宮の医務室って普通に通えそうなのに、どしてあなたが住んでないの?」
「帰るの面倒だから」
「ええー……」
その明らかな嘘の気配に気づいたのだろう、ノーラの口から苦情の声が漏れた。
「だーって王宮ってお風呂あるし、住むのに不自由しないし、色々と便利なんだよ」
「そ、そだね……」
「なにその納得しかねてる顔。ここの鍵を持ってるのは私と君と、シエラだけだから」
「あ、はい」
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