1 窓

2/11
前へ
/56ページ
次へ
「それ、自分だと思ってなかったですよね」 「うっさいなあ。地上へ行くったら女ができたと思うでしょ普通に」 「ティオの恋は生涯に一度きりですけど」 「私のことを本気じゃなかったと思ったんだよ!」  はあ、とため息をつかれた。 「あなたのわからなさに呆れて家出したんじゃないんですか」 「家出じゃないよ、独立!」 「おめでとうございます」 「……どっちに対して?」 「あなたの洞察力に」  からかわれた、とわかった瞬間、苛立ちが頂点を突破した。 「カシクバート・サライエ・ベルシクム子爵」 「は、い?」 「誰に対して口きいてる?」  我ながら、とてつもなく剣呑な声になった。 「身分で対抗しますか、バーランド公爵はそういうのを嫌ってましたよね」 「ティオの前ならね」  主が身分をひけらかす姿を見たら、最下層の身分であるティオは自分を卑下するだろう。  私との間に身分差を気にするようなことは、絶対にさせたくなかった。 「あ……」 「私、怒ってるんだけど」  カシクバートが椅子から立ち上がり、すんなりと膝をついた。 「申し訳ありません」 「謝ってほしいわけじゃないよ。確かに私は色恋ざたには疎いけど、それをからかわれるのは好きじゃない」 「……私が浅慮でした。バーランド公爵の優しさに甘えておりました」 「だから、違うって」  仕方なく、カシクバートと視線を合わせてしゃがんだ。 「身分を越えて親しくしてくれるのは嬉しいよ。そこは誤解しないで」 「申し訳ありません……」  やっと、安心したように笑う。 「そもそもノーラが君を頼りにしたことが腹立つ!」 「……え、そこからですか」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加