1 窓

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 イグノトルが帰ったあと、ティオ・ノーラはさっそく自分で玄関の鍵をかけた。  外からと中からとではやり方が違うので戸惑ったが、何とか開かないようにできた。 「よしっ、できた! これでぼくのおうちだっ」  寂しい気持ちもあるけど、今日からの新しい暮らしが楽しみで仕方がない。  おうちにおともだちを呼んでみたいし、家具の配置も少しくらいなら変えていいだろう。  お風呂に入ってみたいし、おせんたくもできるようになったから、やってみたい。  と、とりあえず落ち着こうかな、と豪華な装飾のついたお花柄のソファに座ってみる。 「わあ……」  身が沈むほど、やわらかい。 「す、すごいなあ……」  壁紙もキラキラしているし、明かりがつく燭台もたくさんあって、ガラスが連なっている。  お酒の棚も……あ、お酒は置いてないけど、グラスがたくさんある。色が邪魔しないようになのか、全部が透明だ。 「きれいだあ……」  たぶん、イグノトルさまのお母さんの趣味だったんだろう。豪華だけれど、派手にはならない家具たちも気取らなくて好きになれそうだ。  イグノトルさまがなぜ、ここに住んでいないのかはわからない。  王宮が便利なのはそうだけど、それだけじゃない嘘の気配がしていたから、理由はほかにある。  本宅のほうは前のティオを思い出して辛いからだろうし、やっぱりお母さんのことも思い出したくないんだろうか。  光からうまれた初代ティオのぼくには、家族っていう感覚はわからない。  だから、イグノトルさまの気持ちを完全にはわかってあげられない。 「気配、無理してるっぽかったなあ……」  ぼくが他人のおうちを借りて住むのが嫌で、仕方なく別宅にしたのかもしれない。本宅は、前のティオを亡くした場所だ。ぼくを住まわせたいはずはない。  だったら、これからおしごとを見つけて、自分でおうちを持てるようになりたい。  そしたら、イグノトルさまも今よりもっと安心してくれるだろうか。  玄関で、呼び鈴が鳴った。 「は、はあい!」  初めてのお客さんだっ!  失礼のないようにしなくちゃ、と咳払いをして鍵をあけ、玄関扉を開ける。  ほんの少し微笑みを浮かべたシエラニーナさんがいた。
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