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イグノトルが帰ったあと、ティオ・ノーラはさっそく自分で玄関の鍵をかけた。
外からと中からとではやり方が違うので戸惑ったが、何とか開かないようにできた。
「よしっ、できた! これでぼくのおうちだっ」
寂しい気持ちもあるけど、今日からの新しい暮らしが楽しみで仕方がない。
おうちにおともだちを呼んでみたいし、家具の配置も少しくらいなら変えていいだろう。
お風呂に入ってみたいし、おせんたくもできるようになったから、やってみたい。
と、とりあえず落ち着こうかな、と豪華な装飾のついたお花柄のソファに座ってみる。
「わあ……」
身が沈むほど、やわらかい。
「す、すごいなあ……」
壁紙もキラキラしているし、明かりがつく燭台もたくさんあって、ガラスが連なっている。
お酒の棚も……あ、お酒は置いてないけど、グラスがたくさんある。色が邪魔しないようになのか、全部が透明だ。
「きれいだあ……」
たぶん、イグノトルさまのお母さんの趣味だったんだろう。豪華だけれど、派手にはならない家具たちも気取らなくて好きになれそうだ。
イグノトルさまがなぜ、ここに住んでいないのかはわからない。
王宮が便利なのはそうだけど、それだけじゃない嘘の気配がしていたから、理由はほかにある。
本宅のほうは前のティオを思い出して辛いからだろうし、やっぱりお母さんのことも思い出したくないんだろうか。
光からうまれた初代ティオのぼくには、家族っていう感覚はわからない。
だから、イグノトルさまの気持ちを完全にはわかってあげられない。
「気配、無理してるっぽかったなあ……」
ぼくが他人のおうちを借りて住むのが嫌で、仕方なく別宅にしたのかもしれない。本宅は、前のティオを亡くした場所だ。ぼくを住まわせたいはずはない。
だったら、これからおしごとを見つけて、自分でおうちを持てるようになりたい。
そしたら、イグノトルさまも今よりもっと安心してくれるだろうか。
玄関で、呼び鈴が鳴った。
「は、はあい!」
初めてのお客さんだっ!
失礼のないようにしなくちゃ、と咳払いをして鍵をあけ、玄関扉を開ける。
ほんの少し微笑みを浮かべたシエラニーナさんがいた。
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