宝箱2020/05/05

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「どうぞ」  わざと足もとに置いてみた。当然手の届かないティオが、むぅ、と顔をしかめて起き上がる。 「わあ、大きい箱だね。なにかな?」 「どうぞ、開けてみて」  子供みたいにビリビリと豪快に開けている。 「箱?」  ん? と首をかしげる。 「君の拾ってきた宝ものを入れる箱にどうかな?」 「えええ!!」  わああ、と箱をパカリと開けている。 「こ、ここに、入れておくの?」 「うん。そうしたらなくさないし、いつでも開けて見られるでしょ?」 「うわあ……、嬉しい……」  ぎゅう、と箱に抱きついている。  うん、贈り物として正解だったな。  ぴょこんとベッドを降りて、宝ものを取り、宝石箱に入れはじめる。  表情を見るに、とてもとても嬉しそうだ。  何か貢ぎたいような気持ちが芽生えはじめて、その感情にあわてて蓋をする。  喜ばせるのと甘やかしは、別物だ。  何もかも不自由のないよう買い与えるのは、よろしくない。 「ティオ、本物の宝石をひとつ買ってあげるよ」 「えっ?」  きょとん、としている。宝石がほしいわけではなさそうだ。  だが、私のティオである以上、貴族階級に準じることになる。拾ったガラクタで遊ぶのはもちろん構わないが、本物を見る目も養っておいてもらいたい。 「夜、お出かけしようね」 「う、うん……、わかったー」  宝石屋に入ると、ティオがこぼれ落ちそうなほど大きな目をして、店内を見回した。 「どれでもひとつ選びなさい」 「みんなきれいだあ……」  素直すぎる賛辞に、店員のくすくす笑いが聞こえる。 「え、選べないよ……、どうしよう」  いらっしゃいませ、と声をかけてくれたのは、宝石箱を出してくれた店員だった。 「彼が例の宝石箱、とても喜んでくれてね、中身を買いに来たんだよ」  まあ、それはよかったです、と微笑んでくれる。 「あの子の瞳によく似た桃色の石ある?」  お待ちくださいね、と探しに行った。 「ぼく、あなたの色がいい」 「いや、私の瞳は黒いから、あまりつけられる色ではないよ。透明なのにしておく?」 「うんー……でも自分の色はあんまり好きじゃないから。ぼく、あなたの気配の色にするね」 「は……?」  どういうことだ、気配に色があるのか。天使には見えないし察することもできないからわかりようがない。  桃色はいらないです、あのね、と色を説明しはじめる。 「あのね、色が変化するの、ありますか。透明でね、わーって混ざってるようなの」  それはどういう、と店員がティオの幼い言葉の意味に助けを求めてくるが、私にわかるわけはない。
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