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「どうぞ」
わざと足もとに置いてみた。当然手の届かないティオが、むぅ、と顔をしかめて起き上がる。
「わあ、大きい箱だね。なにかな?」
「どうぞ、開けてみて」
子供みたいにビリビリと豪快に開けている。
「箱?」
ん? と首をかしげる。
「君の拾ってきた宝ものを入れる箱にどうかな?」
「えええ!!」
わああ、と箱をパカリと開けている。
「こ、ここに、入れておくの?」
「うん。そうしたらなくさないし、いつでも開けて見られるでしょ?」
「うわあ……、嬉しい……」
ぎゅう、と箱に抱きついている。
うん、贈り物として正解だったな。
ぴょこんとベッドを降りて、宝ものを取り、宝石箱に入れはじめる。
表情を見るに、とてもとても嬉しそうだ。
何か貢ぎたいような気持ちが芽生えはじめて、その感情にあわてて蓋をする。
喜ばせるのと甘やかしは、別物だ。
何もかも不自由のないよう買い与えるのは、よろしくない。
「ティオ、本物の宝石をひとつ買ってあげるよ」
「えっ?」
きょとん、としている。宝石がほしいわけではなさそうだ。
だが、私のティオである以上、貴族階級に準じることになる。拾ったガラクタで遊ぶのはもちろん構わないが、本物を見る目も養っておいてもらいたい。
「夜、お出かけしようね」
「う、うん……、わかったー」
宝石屋に入ると、ティオがこぼれ落ちそうなほど大きな目をして、店内を見回した。
「どれでもひとつ選びなさい」
「みんなきれいだあ……」
素直すぎる賛辞に、店員のくすくす笑いが聞こえる。
「え、選べないよ……、どうしよう」
いらっしゃいませ、と声をかけてくれたのは、宝石箱を出してくれた店員だった。
「彼が例の宝石箱、とても喜んでくれてね、中身を買いに来たんだよ」
まあ、それはよかったです、と微笑んでくれる。
「あの子の瞳によく似た桃色の石ある?」
お待ちくださいね、と探しに行った。
「ぼく、あなたの色がいい」
「いや、私の瞳は黒いから、あまりつけられる色ではないよ。透明なのにしておく?」
「うんー……でも自分の色はあんまり好きじゃないから。ぼく、あなたの気配の色にするね」
「は……?」
どういうことだ、気配に色があるのか。天使には見えないし察することもできないからわかりようがない。
桃色はいらないです、あのね、と色を説明しはじめる。
「あのね、色が変化するの、ありますか。透明でね、わーって混ざってるようなの」
それはどういう、と店員がティオの幼い言葉の意味に助けを求めてくるが、私にわかるわけはない。
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