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「宝石ではありませんが、ガラス玉でしたら色の混ざったものがございますよ」
「見せて!」
はい、とティオに応じている。おかしい。本物の宝石を買いに来たはずなのに、楽しそうにティオはガラス玉を選びはじめてる。
いっこって約束したから、と真剣に悩んでいる。
公爵のティオがガラス玉をひとつ買ってもらうのに悩む姿ってのは、どうなんだ。当初の目的から外れてしまっているではないか。
「ティオ、宝石にしなさい。君に学ばせるために買うんだから、ガラス玉じゃ意味がない」
「えっ、そうだったの……。こんなきれいなのに……」
しょんぼりと手の中のガラス玉を眺めて、元に戻した。
「宝石の冷えた質感や輝きを学ぶためだからね、遊びじゃないんだよ」
「そっかあ……、ざんねん」
しまわれていくガラス玉を目で追いかけるティオに、それ全部くださいと言いたくなるのをこらえる。
「私が選ぶよ。それでいいね?」
「はぁい……」
結局、淡い桃色の石を購入したが、ティオの表情は暗く沈んでしまっている。
ガラス玉が気に入ったのだろう。ひとつぐらい買ってあげればよかったかな、と思ってしまい、甘やかしてはいかんと自らに言い聞かせる。
帰って、宝石を手に乗せて、その煌めきを珍しそうに眺めているティオを眺めている。
「これが本当の宝石なんだねー」
私はまだ、この子に公爵という身分を明かしていない。
成人したら嫌でも知ることになるが、知って今の親しい距離感が離れてしまうのが、嫌だ。
「ティオ、貸してごらん」
「はいっ」
落とさないよう、そうっと手のひらに乗せてくれる。
それを摘みあげて、光にかざした。
「宝石は、長い年月をかけて石になった何かだ。大きいものになると、やはりどうしても中に不純物が混ざる。ここ、わかる?」
「あ、なにか入ってる」
「これが本物の宝石である証拠ね。短時間で作られた贋物は、見た目は綺麗だが、これが含まれない」
ほえー、という顔をして眺めている。
「これが目立つほうが高価なの?」
「いや、高価なのは不純物が限りなく少ない。贋物と変わらなくなるんだよ」
「ええ……、どうやって見分けるの」
「風格。それは年月にしか出せない。細工の複雑さや輝きは似せられても、本物は違う。これが、本物だ」
ティオの手に、宝石を握りこませる。
「そっかあ……難しいんだね」
「やっと養育者らしいことをしてる気がするよ」
ふふ、と笑ってる。
「ガラス玉もきれいだったよ。ぼくの好みでいったら、宝石よりガラス玉が好きかなあ」
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