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当時の心幼かった可愛いティオは、もういない。
「なんでぼく、こんな羽根ばっかり集めてたんだろ。こんなの、本物のほうがいいに決まってるのに」
ささやくように言って、私の背に手を回してくる。出してよ、と言わなくてもわかるから、隙間から手を入れて撫でるのやめてほしい。
「ここ、触ると出てくるよね」
「変な風に言うな!」
翼が服にひっかからないように導き出してくれる手つきの慣れに、辟易する。
「うん、やっぱり本物がいい」
こっちもね、と両翼を出させて翼ごと抱きしめて。
ああ、もう。
好きにされてる。
「ぼくの天使さま……」
「もういい? 仕舞うよ?」
「だめ、もうちょっと見せて」
膝をつき、翼の先端に口づけてくる。貴族の男の扱いに慣れすぎたノーラの所作に、ときめきよりは呆れてしまう。
ノーラの手から自由を取り戻し、するりと翼を仕舞う。
「あっ、もう!」
「付き合ってられるか」
私は相変わらず社交界が苦手なのに、ノーラは着実に成長して私を惑わせてくる。
「昔は可愛かったのに」
「どうせぼく、もう可愛くないもん」
ぷん、と唇をとがらせて横を向く。それでも、私の前でだけ見せる幼さは、変わらない。
大人と、子供と。両方をあわせ持つノーラの魅力は、増すばかりだ。
「可愛さだけが君の魅力ではないからねえ」
む、とみるみる頬が染まっていく。
「大人なぼくも、好き?」
「もちろんですよ、私のティオ」
わあ、と笑顔がほどける。
ぴょんと飛びついてくるノーラを抱きとめて。君を愛してるよと何度でも繰り返し、言葉ではなく心に強く思う。
私の気配を読むノーラの能力に依存する、私だけの伝えかた。
ガラス玉より本物で、透明できっと、宝石よりも私は、君のものだ。
―おわり―
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