宝箱2020/05/05

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 当時の心幼かった可愛いティオは、もういない。 「なんでぼく、こんな羽根ばっかり集めてたんだろ。こんなの、本物のほうがいいに決まってるのに」  ささやくように言って、私の背に手を回してくる。出してよ、と言わなくてもわかるから、隙間から手を入れて撫でるのやめてほしい。 「ここ、触ると出てくるよね」 「変な風に言うな!」  翼が服にひっかからないように導き出してくれる手つきの慣れに、辟易する。 「うん、やっぱり本物がいい」  こっちもね、と両翼を出させて翼ごと抱きしめて。  ああ、もう。  好きにされてる。 「ぼくの天使さま……」 「もういい? 仕舞うよ?」 「だめ、もうちょっと見せて」  膝をつき、翼の先端に口づけてくる。貴族の男の扱いに慣れすぎたノーラの所作に、ときめきよりは呆れてしまう。  ノーラの手から自由を取り戻し、するりと翼を仕舞う。 「あっ、もう!」 「付き合ってられるか」  私は相変わらず社交界が苦手なのに、ノーラは着実に成長して私を惑わせてくる。 「昔は可愛かったのに」 「どうせぼく、もう可愛くないもん」  ぷん、と唇をとがらせて横を向く。それでも、私の前でだけ見せる幼さは、変わらない。  大人と、子供と。両方をあわせ持つノーラの魅力は、増すばかりだ。 「可愛さだけが君の魅力ではないからねえ」  む、とみるみる頬が染まっていく。 「大人なぼくも、好き?」 「もちろんですよ、私のティオ」  わあ、と笑顔がほどける。  ぴょんと飛びついてくるノーラを抱きとめて。君を愛してるよと何度でも繰り返し、言葉ではなく心に強く思う。  私の気配を読むノーラの能力に依存する、私だけの伝えかた。  ガラス玉より本物で、透明できっと、宝石よりも私は、君のものだ。 ―おわり―
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