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俺の名前は成田 誠。そこら辺にいる普通のサラリーマンだ。昔の夢はお笑い芸人だった。
夢というがそこまで本気だったわけじゃない。あくまで高校の文化祭で漫才をするレベルだ。
今は普通に就職して可愛い彼女もいて、毎日何不自由なく幸せな日々を過ごしている。そしてあの時、何かの間違いでお笑い芸人にならなくてよかったと心底思っている。
そんな俺は今、居酒屋で先輩の松野弘明と飲んでいる。
今日は何となく飲みたい気分だった。
松野さんは俺の尊敬する先輩で2年前に俺がいる支店に転勤してきた。いつも飲みに連れて行ってくれたり、可愛がってもらっている。
「松野さんももっと飲みましょうよ」
「成田、飲み過ぎだぞ?」
お前今日何杯飲んでるんだ? と言われたけどまだ俺は帰る気にはなれなかった。
「本当に大丈夫か? お前」
「大丈夫っすよ、これくらい……」
不思議と今日はどれだけ飲んでも飲み足りなかった。
「何があったかは知らないけど……もうお開きにするか」
そう言って松野さんは帰る準備を始める。
「松野さん! もう一軒行きましょうよ!」
「そんなベロベロで何言ってんだよ」
「いや、まだ飲めますって!」
「いいからもう帰るぞ」
まだ帰りたくないと俺はグラスに入っていた酒をグイッと飲み干した。
「すいません、おかわり下さい!」
こんな日常に過ぎない今日が終わると俺の幸せは音もなく崩れ去ることをこの時の俺は全く知る由もなかった。
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