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ユウと初めて会ったのは、小学6年生の時に出場した全国小学生XYZ大会県予選の決勝戦だった。
『ねぇ、ママ。決勝戦の相手、この名前なんて読むの?』
「ん? 佐伯 悠(サエキ ユウ)ちゃんじゃない?」
『ふーん。ユウちゃんか。』
「それより美稀(ミキ)、真稀(マキ)どこいったか知らない?」
真稀とは、私の3歳年下の妹である。真稀も同じ大会の小学校3、4年の部に出場して、年上の4年生にボコボコに負けて、さっきまでその辺でビービー泣いていたのに。
『知らない。』
「美稀、ママちょっと真稀探してくるから、試合時間遅れないように先にコートに行ってなさい。ちゃんとストレッチしてからね。」
私は、同じクラブの志帆ちゃんに手伝ってもらって試合前のストレッチをしてから、武田コーチと一緒に決勝戦が行われるAコートに向かう。
“まったく真稀ったら世話が焼けるんだから。”と思っていたら、どこからともなく現れた真稀が私の腕を引っ張って耳打ちする。
「おねーちゃんのためにテーサツ行ってきたよ!」
『偵察?!』
「おねーちゃんのつぎのあいてはねー、おねーちゃんよりひとつ下の5年生。スマッシュがすごくはやいんだって。」
『ふーん。…って、ママが心配して探してたよ。早く控え室に戻って!』
「はーい。んじゃ、がんばってね。おねーちゃーん。」
パタパタと選手控え室に戻る妹を見送りながら、“スマッシュが速いねぇ…”なんて考えていた。約一時間後、あんな事になるとも知らずに…。
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