一章

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side藤本 「ふあぁ……あ、」 「!…………おはようございます」 「お、はようございます……」 ──あぁ、まただ。また可愛げのない返事をしてしまった。。 数秒前の自分の言葉に、内心で頭を抱える私。大江君を見るといつもこんな態度をとってしまう。ていうか多分初対面の時から……。 結局そのまま言葉を交わす事なく同じエレベーターに乗り、同じフロアに降り立った。そして同じセクションに向かう。平静を装っているが、ずっと心拍数が上がっている。恐らくその原因である彼をちらりと見やる。 ──あれ?なんだか今日はいつもと違う……?あぁもう、気になるなら聞けばよかったじゃない!……なんでこんなに面倒くさい性格に生まれちゃったのかなぁ。 初めて彼を見た時、きゅっと胸を掴まれたような感覚に襲われた。初めて声をかけられた時、心臓が踊った。これが一目惚れなのかなって思ったのに、咄嗟に口をついて出たのはあまりにも素っ気ない言葉だった。きっと彼は幻滅したに違いない。ああぁ、できる事ならもう一度あの瞬間に戻ってやり直したい!いやっ、やり直したところで私が変わらなければ同じ言葉を繰り返すのだろう。 他人と話すことに抵抗はないし、煩わしいと思ったこともない。ただあまり表情に出ないねって言われることはあるけれど、慣れた人なら笑顔で会話できている自負はある。今まで恋人がいたこともあったけど、こんな不審な態度はとった事がない。 ──実際、彼は私のことどう見てるんだろう。変な先輩と思ってるかなぁ。まさか怖がられてるとか……? 日々悶々としている。 .
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