一章

8/10
前へ
/10ページ
次へ
side藤本 頬を彼の熱い手が包む。その熱がこちらにも流れ込んできて、さらに顔を熱くする。少し寄せられた彼の眉間が、焦りと緊張を伝えてくる。私だけじゃなくて、彼ももしかしたら──そう期待してしまってもいいのだろうか。 頬を包む大きな手に、ゆっくりと自分のを重ねた。 「…………すき、です」 びくっと彼の指が震えた。彼の紅潮した頬がゆっくりと緩み、ふっと肩が下がったように見えた。 「おれも、です」 いつの間にか至近距離で私達は微笑みあっていた。お互いが遠慮しあって、なかなか伝えきれなかった思いを吐き出して、やっと緊張の糸が切れた瞬間だった。 そこでやっと、朝から気になっていたことを思い出した。 .
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加