皆川編 迷子襲来ー1

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彼女と出会ったのは、仕事後に立ち寄ったバーだった。 ここに来る時は必ず一人だ。 人事コンサルタントという職業は当然ながら人が仕事の対象物だ。 “対象物”という表現通り、人の本質を読み、選別し組み直し、時に廃棄するというプロセスに余計な感情は一切入れない。 いちいち感情移入していると仕事の支障になり、組織の引き締めも甘くなる。 それは過去の経験から学んだことで、僕がこの仕事を選ぶ動機と鉄則を形づくっていた。 それでも時に一種の人酔いなのか、人間を見るのが無性に鬱陶しくなることがある。 そんな時、ここに足が向く。 僕にとっては、自宅の部屋より“一人”になれる場所だった。 この店の外観はあまり目立ないため基本的に常連ばかりで、飲み会帰りの騒々しい種族がなだれ込んでくることはない。 安心して孤独に浸れる場所──のはずだった。 あのおかしな迷子が現れるまでは。
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