雛ペンギンは影に怯える

5/14
前へ
/20ページ
次へ
・・・・ パイロットシートに座っていると、 自分がこうしているのがすごく不自然な気がしてならないことがある。 ボクは東北の山奥の限界集落出身だ。 それこそ海なんてものと縁などなく、 子供の頃には海に行きたいとも、 見てみたいとも思ったことはなかった。 初めて海を見たのは横須賀の士官候補生学校に入った時だったと思う。 あの時、 ボクは焦っていた。 目まぐるしく変わる国際情勢がニュースで報道されるのに、 自分のまわりはなにも変わらず、 ただ朽ち果てるのを待つように老人たちが田畑を耕している。 まるで世界から取り残されているようで、 自分も朽ちていくようで、 やるせない気分になったからだ。 でも、 実家は決して裕福ではなかったから、 関東の大学に行くなんて夢のまた夢。 それを叶えるには、 士官候補生学校に入るしかなかった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加