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先に紙袋を覗き込んだアカネの、落胆に満ちた声がする。どうしたのだろうとそちらを見ると、木箱の机にパンが置かれていた。
「あのおっさん、二個しか持ってなかったのかよ」
「俺とアカネで一個ずつ食えばいいだろ」
「それでは俺の分が無いではないか! そもそもパンを手に入れられたのは俺のお陰だろう」
レノルフェがとんでもないことを言うので、思わず木箱をバンッと叩いてしまう。王都からここまで走ってきたせいで、胃が痛くなるほど腹が減っているのだ。
「そうだったな。じゃあ……ほら」
たった今思い出したかのように頷いたアカネは、持っていたパンを三分の一くらいにちぎって、フィオの前に置く。元が手の平大のロールパンなので、それは一口で食べ終わりそうなくらい小さい。
(やむを得ない。今夜はこれで我慢するか)
ここで贅沢は言えない。明日、食料を調達するまではこの僅かなパンで凌(しの)ごうと諦めかけたら、フィオの前にもう一かけのパンが置かれた。
「ほらよ。これで平等だろ」
「レノルフェ、ありがとう」
「勘違いすんなよ、これで貸し借りは無しだからな。ごほ、ッ、げほ…あとは、成り下がった可哀想なお前への慈悲だと思え」
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