第一章

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 粗野な言い草にムッとしつつ、少しでも腹の足しになるものが増えたことに素直に喜んでしまう。せめてゆっくり、味わって食べようとパンをいつもの半分くらいの大きさにかじる。 「そういえば、二人はどうしてここに居るんだ? やはり十年前の独立戦争のせいか」  喋っていた方が食べる速さも落ちるのでは、と思って二人の過去について尋ねてみた。ただ純粋に、こんな場所に住むほどの事情が気になったせいもある。 「ラジオーグのお坊ちゃんは知らないだろうけど、ここは戦の前からあったんだ。今よりは小規模だったが、ラジオーグの貧しい奴らが集まって街のようなものを形成してた」 「戦の前からあったのか……知らなかったな」 「そんでイフターンが負けて、路頭に迷ったイフターンの奴らが流れ込んできたって訳だ。今となってはラジオーグ人も増えてきて、割合で言うと半々ぐらいだな」  レノルフェの話は、学校の授業や王宮でも聞いたことがなかった。特に上流貴族や王族は、貧民街をラジオーグの恥部だと考える者が多い。意図して隠されていたのだろう。  とはいえ、人より博識であることを自他共に認めてきたフィオは、密かに肩を落とす。 「レノルフェはこの辺りについて詳しいのか?」 「まあ、十三年も住んでるしな」 「そんなに長いのか。幼い頃から苦労してきたんだな」 「おい、同情とかするなよ。苦労したことも無いくせに」 「っ!」  なぜ、せっかく落ち着いてきたのに神経を逆撫でするようなことを言うのか。王子にもそれなりの苦労はあったし、何よりも今、この状況が苦しくないはずもない。 「ア、アカネは? アカネはいつからここに居るんだ?」  せめて気を紛らわそうと、話し相手を変えてみる。 「オレは五歳の時に両親に捨てられて。それからレノが、本当の兄貴みたいに優しくしてくれた」 「子を捨てる親なんているのか?」 「むしろここに居る子供はそういう奴らばっかりだ。親が捨てるか、先に死ぬか」 「……」  信じられない。  先立たれてはどうしようもないが、腹を痛めて産んだ子供を捨てるなんて残酷すぎる、と怒りさえ湧いてくる。
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