第二章

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 ――背中が痛い。  固い地面で寝ていたせいだろうか。それにしては、局所的な痛みが途切れ途切れに襲ってくる。  何かおかしい。そう思ったフィオはうたた寝の淵から這い上がり、うっすらと眼を開けた。  ぼんやりとくらい部屋に視線を彷徨わせると、その人物はすぐ後ろにいた。 「アカネ…何をしている……?」 「あんたを起こしてんだよ」 「……貴様、この私を蹴るとは……良い度胸だな」  容赦なく背中を蹴飛ばしているアカネに、怒気を孕んだ声をぶつける。いつになく機嫌が優れないのは、やっと深くなってきた睡眠の途中で無理やり覚醒させられたからだ。  そうでなくても朝は眠くて苛々するのに、こんな起こし方をされてはたまらない。 「昨日言っただろ、明日は早いって」 「全く……こんな固い土の上ではおちおち寝ていられなかったぞ」 「知るかそんなこと。良いから起きろ」  フィオはしぶしぶ身体を起こし、寝ぼけ眼(まなこ)を擦りながら大きな欠伸(あくび)をした。口の割にだらしないな、と嫌味を言われても気にならないほど眠くて頭が働かない。 「……何だ、レノルフェは」  レノルフェはまだ寝ているではないか。そう言いかけて言葉を呑み込んだ。眼は瞑(つぶ)っていて眠りの中にいるようだが、寝息とは別に喘鳴(ぜんめい)が混じっている。たまに咳もしていて寝苦しそうだ。 「レノはいいんだ。行くぞ」 「あ、ああ」  外に出ると、瑠璃(るり)色の空が二人を待ち受けていた。 「まだ夜も明けていないぞ。こんなに早くから何をしに行くんだ?」  照明を火に頼っているのは王宮でも貧民街でも変わらないから、フィオも日の出入りに合わせた生活を送っていてた。  それでも暁(あかつき)の刻(こく)に起きたことはない。 「市場(いちば)は夜明けと共に動き出すからな」  なるほど、市場に買い出しにでも行くのか。庶民に混ざって買い物などしたことがないから興味がある。ならばせめて、それに相応しい準備をしなければ。 「先に顔を洗いたいんだが」 「オレもそう思ってたところ。来いよ、川があるから案内してやる」  アカネは一度フィオを振り返ってから足早に行ってしまった。  こうして独りで歩く小さな背中のたくましさには感服するばかりだ。
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