第二章

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     ***  ゴミ捨て場に着いたのはアカネが先だった。よく考えれば、勝敗は既に決まっていたのだ。その場所を知らないフィオは、アカネに付いていくしか目的地に着く方法はないのだから。  ぜえぜえと息を切らすフィオに放たれた『やっぱお前馬鹿だな』の一言は一生忘れない。  すっかり疲弊したフィオの頼みで、今度は歩きながら市場へと向かった。着く頃には完全に陽(ひ)が出ていて服も乾き始めていた。 これから開かれる朝市のために商人達がせっせと働いている。ここは主に下流階級の者達が集っているようだ。 「なあアカネ、家を出た時から気になっていたのだが……」 「ん?」  フィオは、なぜか物陰に身を隠しているアカネの腰を指す。 「その小刀(ナイフ)は?」 「前に拾った」 「そうじゃなくて、どうして買い物をするのに小刀(ナイフ)を持つ必要があるんだ」  アカネの腰に巻かれた帯革(ベルト)には同じく革の鞘が着いていて、そこにはフィオの手よりも大きい刃渡りの小刀(ナイフ)が収められていた。  フィオの問いに、アカネはそれをすっと引き抜く。簡単に喉を掻き切られそうなくらい鋭い切っ先に息を呑んだ。 「もし店の奴に捕まりそうになったらこれで威(おど)すんだ」 「ま、まさか盗むのか?」 「昨日も言ったろ。金が無いんだから仕方ない」  だからといって、普通の少年が持っているのは物騒すぎる。いやその前に、物を盗るのは立派な犯罪だ。いくらアカネが貧民街の住人でも見過ごす訳にはいかない。 「盗むのは駄目だ」 「何でだよ。食べ物が無かったら、オレ達死ぬぜ?」 「それは……」  フィオは言葉に詰まった。これが彼らの生きる手段であることは重々承知している。それでも、やって良いことと悪いことはある。  ここでフィオが金を出すと言えれば良かったのに、生憎(あいにく)昨夜アカネを助ける際に手持ちは全て使ってしまった。 「もういい。行ってくる」 「待て! やはり盗むなんて――」  咄嗟にその腕を掴んで説得にかかる。
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