第二章

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「誰もフィオがやれって言ってるんじゃないだろ」 「でもアカネがやろうとしているのは犯罪だぞ」 「今までこうして食いつないできたんだ。俺の生き方に文句あんのかよ」 「ちが…、アカネを否定しているんじゃなくて……」  自分でもこの感情をどう現わすべきか分からなくて苛立った。怒りの矛先はフィオ自身に向いている。  たった十五歳の少年にこんなことを続けてほしくないのに、彼には生きる術(すべ)を失ってほしくもない。だがそれを何とかするほどの財力も権力も、今のフィオには備わっていない。  歯がゆくて、焦れったくて、情けなかった。 「何がそんなに嫌なんだよ。だったらオレが盗ってきたモン食わなきゃいいだろ」 「そういう問題じゃない。アカネに悪いことをしてほしくないだけだ」 「じゃあどうしろって言うんだよ!」 「――っ」  アカネの気迫に圧倒されて、そろそろと腕を掴んでいた手を離してしまう。 (これで良いのか? 小さいうちから泥棒をすることに慣れていては、この先もっと悪いことに手を染めてしまうかもしれない)  とにかく、彼のことが心配だった。身分を隠しているとはいえ自分に臆せず接してくれるからだろうか。まだ出逢って一日なのに、小さな身体で強く生きる少年に、無性に惹かれている。 「俺に、出来ることはないか?」 「だったら何か盗ってこい」 「そんなやり方じゃなくて、アカネの役に立ちたいんだ」 「……お前、貧民街での生き方も知らないくせに人の役に立とうとするなよ。まずは自分が生きるために役立つことをしろ。その為には良心を捨ててこい」 「それは出来ない。俺はアカネの役に立つことが自分の役にも立つと思うんだ」  何か、良い解決法はないものか。平和に、穏便に済ます方法は。  懸命に思考を巡らせていると、フィオの目の前に小刀(ナイフ)の尖端が突きつけられた。 「盗みが嫌なら、身体でも売ったらどうだ」 「身体を……?」  どうやって、と言おうとした矢先。頭に手が回ってきて、後ろで結わえていた髪をぐっと握られる。正面から双眸(そうぼう)を見据えられ、フィオは全身を強張らせた。 「知ってるか? 銀髪は一番高く売れるんだ。この長さなら金貨一枚くらいにはなるだろうな」  迫ってくるアカネの顔に、ごくりと唾を飲む。これがそんな大金になるのなら昔から伸ばしてきた自慢の髪も惜しくはない。
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