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軽く会釈するだけにとどめ、エレベーターホールの方に歩き始めた。
「あ、ありがとうございます!」
背後では、ようやく息を吹き返したらしい迷子が嬉しそうに声を張り上げ礼を述べた。
いえいえ、礼には及びません。
これは単なる前振りで、親切ではありませんから。
「ああ、そうだ」
足を止め振り向くと、肩からバッグを下ろしていた彼女の動きが止まった。
「ストッキングが」
出だしのたった一言で彼女のバッグが床に落ちた。
いつもながら、予想を上回るアシストぶりだ。
ご丁寧にペンまで飛び出し、騒々しい音を立てて廊下を転がっていく。
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