始まりの金曜日

3/3
前へ
/67ページ
次へ
「ただいまー」 「おかえりー」  元気よくドアを開けたらいい匂いがして、パタパタと駆け寄ってきてくれる恋人が待っていてくれるなんて。  なんて幸せで贅沢なんだろうとホクホクと噛みしめながら、相変わらず華奢なままの司をぎゅっと抱く。 「まだ外寒いんだね」 「朝晩はねー、冷えるからねー」 「颯真、つめたい」  耳元でたどたどしく呟いた司が、むぎゅ、と抱く腕に力を込めて。 「あっためてあげるよ」  照れて笑った声でそんな風に恥ずかしそうに言うのが愛しくて、にっこりと笑う。  ありがと、と呟き返したら、ぎゅー、なんて効果音付きで司を抱き締め返して。 「いい匂いだね。晩ご飯?」 「今日はね、豆乳うどん」 「いいねぇ、あったまるね」 「ん。早く食べよう。お腹空いた」  にこり、と笑って頷いた司に促されてようやく互いに腕を解いたら、短い廊下を歩く。 「そういえばさ。3連休にしたいこと、ホントにないの?」 「ない」 「……そっか」  たいして悩みもせずにキッパリと言い放った司に、やれやれと苦笑してからコートを脱いで鞄を床に置く。 「とりあえず食べよ。あっためすぎたら豆腐になっちゃう」 「そだね」  へたくそな話の逸らし方をする司の頭を、分かってるよと言うかのようにぽふぽふと叩いてやって。  キッチンに消えた司がほかほかと湯気の上がる丼を2つ手にして戻ってくるのを、こたつの中でそわそわしながら待った。 *****
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

139人が本棚に入れています
本棚に追加