たとえば狂愛だったとしても

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「いぃぃぃってぇぇっ」 「そーまぁ、そーまぁ」  うわぁぁん、とくっついて離れないまま泣きじゃくる翔太をオロオロ宥めるお父さんは、だけどオレに対して本当に真摯に頭を下げて、こうして病院まで付き添ってくれた。 「本当にすみません」 「いえ、ホントに大丈……──っぅいっ、て」 「わぁぁぁん、そーま、いじめちゃだめぇぇぇぇっ」 「っ、こら、翔太! お医者さん叩いちゃダメだろ」  ポカポカと小さな手で白衣を殴る翔太を慌てて抱き上げたお父さんが、どうですか、と自分まで泣きそうな顔になって医師に問いかけたら。医師は笑いを堪え損なって引きつった顔で、大丈夫ですよと頷いてくれる。 「骨には異常ありません。まぁ、相当広範囲の擦り傷ではありますが、問題ないですよ」 「──よかったぁ」  はっはっはっと鷹揚に笑った医師が、びしゃびしゃと水みたいな何かを傷口にかける度に悶絶するオレを、哀れむみたいな表情で見下ろしていたお父さんが、肺を空っぽにする勢いで安堵の息を漏らした。  走ってきたバイクに狼狽えて横断歩道のど真ん中で立ち尽くした翔太を守ろうと、オレとお父さんはほぼ同時に駆けだして。  立ち尽くす小さな翔太に気付いたバイクが急ブレーキをかけてギリギリ手前で停止するより前に、翔太を抱えてスライディングしたオレの右膝から下がずる剥けになった。  バイクのお兄さんに助け起こされて、抱えた翔太をお父さんに手渡して。  じゃっ、と痛みを堪えて立ち去るはずだったのに。  ぼったぼた滴り落ちる血だか体液だかに卒倒しかけたお父さんが、慌ててタクシーをひっつかまえて、バイクのお兄さんから名前と連絡先を聞き出した上で近くの病院へ運んでくれたのだ。  会計を待つ待合ロビーのベンチで隣同士で座ったお父さんが、改めて頭を下げてくる。 「本当にすみませんでした」 「いや、あの、ホントに……気にしないでください。翔太が無事で、良かったです」  お父さんの腕の中で指をくわえてしゃくりを上げる翔太の頭を、そっと撫でてやる。 「そーま、いたい?」 「んーん、大丈夫。もう平気だよ」  大袈裟に包帯の巻かれた足をぽんぽんと軽く叩いて笑って見せたら、ホッとした顔でふにゃぁと笑った翔太を。
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